旅で人生は変えられない⑦(欧州編)
前回のあらすじ
ヨーロッパの小国であるベルギー、オランダを訪れた僕。ベルギーでは「難民問題」に直面し、「幸せ先進国」であるオランダでは現地の日本好きのおじさんとなぜか行動を共にするのであった。
次はスペイン・バルセロナへ向かうべく、オランダの空港で夜を明かしたのであった。
(第7章) 情熱の国
早朝のフライトにも関わらず、機内はほぼ満席状態であった。
ちなみにヨーロッパはLCCが発達していて、アムステルダムーバルセロナという国際線ではあるが値段は片道3,000円だった。
フライトは2時間。いつものように目を瞑っていればあっという間に到着した。
2月下旬ではあったが、気温も20度前後と長袖シャツ1枚で過ごせるほど暖かかった。
空港から市内までは、電車と地下鉄で移動しなければならない。
特にバルセロナの電車はスリが多いことで有名だ。だが、正直なところポケットには物を入れないなど基本的なところに注意さえ払っていれば大丈夫だ。
・ガウディの街
バルセロナの中心部、カタルーニャ広場に到着した。僕はさっそく洗礼を浴びた。
ピエロの仮装をした女の子が一緒に写真を撮らないかと交渉してきた。僕はそこまで乗り気ではなかったが、あまりにも押しが強かったため写真を撮ることにした。
撮影後はもちろん、チップの要求だ。僕はしょうがなく財布に入っていた5ユーロ(500円相当)を手渡した。
だが、もっとチップをよこせと要求してくる。ふざけるんじゃない。1、2ユーロが無かったからしょうがなく多めにあげたのにもっとよこせだと。次第にグルと思わしき女も介入してきた。
「言葉の通じないこいつらと口論してもしょうがない」
女たちにスペイン語でこれでもかと言わんばかりの罵声を受けながらその場を去った。
バルセロナの街を散策する。スペインは経済がとても不安定な国で、数年前は若者の失業率が50%もあった。2人に1人は失業する国。
しかしながら、ホームレスの数はそこまで多くはなかった。平日でも夕方には多くの人がバルに集まり、お酒を飲みながら楽しそうに談笑していた。
いつ自分が仕事を失う、収入が無くなってもおかしくない状況でもスペインの人々は楽しそうに生きていた。
結局、人間にとって大事なものはお金でも、安定した生活でもないのかもしれない。
バルセロナの街は、建築家ガウディの「作品群」が世界遺産に登録されており、ガウディ建築を巡っていくのが王道の観光プランだ。
グエル公園、カサ・ミラなど有名どころはたくさんあるが、「サグラダファミリア」を知らない者はおそらくいないだろう。
2026年完成予定の未完でありながらガウディの「最高傑作」とも言われているサグラダファミリア。この迫力と美しさは自分の目でぜひ確かめてもらいたい。
現在建設中の「塔」にも上ることができる。これは事前予約が必須である。音声ガイドも日本語が選択できるため、サグラダファミリアに秘められたガウディの思い、彫刻1つ1つに込められたコンセプトを自分の耳で聞き、自分の目で確かめて来てほしい。
2日目。バルセロナ観光の朝は早い。
なぜなら、ガウディ建築の1つである「グエル公園」は朝6~8時までは無料で入場できるからだ。朝早くにも関わらず観光客がたくさんここに集まり、美しい建築物とともに日の出を眺めるのだ。
僕にとってはバルセロナ観光が最も楽しかった。
美味しいパエリア、タパス、ビール、サングリアを堪能し、現地の人々とも触れ合えた。
「オラ!」
スペイン語であいさつをするとみんな返してくれた。スペイン人はフレンドリーな人が多かった。
その一方で僕は「非日常」という環境に慣れてきつつあると感じていた。もはや毎日が新しい出会い、発見の連続でそのことに感動すら覚えなくなってしまっていた。
少なくとも、出発前や東欧にいる時のような「どきどき」はもう完全に無くなっていた。バルセロナの街が悪いわけではない。むしろ大好きだ。また行きたい。
旅に慣れることは良いことだ。上手に旅ができるようになればその分、引き出しも増える。
だが、旅慣れしていない時に感じていたあの不安やどきどき感。もう感じることはおそらくできないだろう。
旅慣れしてしまった僕はもうすべてが上手くいく。予定調和の旅しかできなくなってしまった。
次は旅の最終目的地、イタリア・ローマだ。
もちろんローマは楽しみだ。ヨーロッパ旅で最も行きたかった場所だ。
しかし、このままでは「楽しかった」だけで終わってしまう気がして恐かった。
そんな不安に襲われながらも僕はバルセロナを飛び立った。
⑧に続く