旅で人生は変えられない⑧(欧州編)
前回のあらすじ
スペイン・バルセロナにやって来た僕。経済が不安定ながらも、酒場に集まり楽しく談笑しているスペインの人々を見て「人間にとって大事なものは何か?」を考えるきっかけとなった。
バルセロナでの楽しい日々を過ごしていた僕は、自分が旅に慣れ、新しい発見や出会いに感動しなくなってきていることに危機感を抱いていた。
(第8章) ロマーノ
バルセロナからローマまでは飛行機で2時間。地中海上空をずっと飛行していた。
きれいな海と島々。空からの眺めは最高だった。
ローマ・フィウミチーノ空港から市内まではかなり離れている。バスで1時間かかる。
ローマの中央駅であるテルミニ駅にバスは到着した。僕の宿はバチカン市国のすぐ近くだ。ここから地下鉄で移動することにした。
電車に乗り込んだ。だが、なかなか発車しない。始発駅だからだろうか。しかし、電車は一向に発車しない。
車内アナウンスが入る。車内に騒然とした空気が流れ、乗客みんな降り始めた。
何が起こったのだろうか。イタリア語が分からない僕はまったく分からなかった。
電車から降りると僕はすぐに状況を把握した。確か僕が乗っていた隣の車両だ。
大柄の男性が車内で倒れていた。乗り合わせた医者と思わしき人が治療にあたっている。改札の方から救急隊がやって来た。
電車は数時間ストップするそうだ。乗客全員がバス停に押し寄せる。
もちろんバチカン行きのバスは超満員だ。体の大きい欧米人に押し潰されながらも、なんとかバチカンに到着した。
・世界一小さな国
カトリックの総本山であるバチカン。あの有名なローマ教皇が住んでいる場所だ。
バチカンはローマの中にあるが、立派な1つの国家だ。しかし、教会や美術館に入る時以外はセキュリティチェックもないため、国境を超えるという意識は特に感じない。
・「ローマは一日にして成らず」
ローマは今回の旅で一番訪れたかった場所だ。
コロッセオなどの古代ローマ帝国時代の遺産、スペイン階段などの「ローマの休日」に登場する場所。教科書や映画で見たままの風景があふれる街並みは圧巻だ。
ローマ滞在の感想を述べるとするならば、「楽しかった」。それに尽きる。
バルセロナで感じていた不安は的中した。特にローマは入念に下調べをしていたため、すべてが上手くいった。
だが、その一方で新たな気づきもあった。下調べをするのとしないのでは大きな差が生まれるということだ。
「なぜローマ帝国は繁栄し、やがて衰退の道を歩んだのか」
その歴史を少しだけでも予習しておくだけで感じ取れるものが違う。少しも下調べをしないでコロッセオに行ってみたとしよう。
「教科書で見たことある!」
それだけで終わってしまう。感動なんて一瞬だ。あとは写真をとって終わる。
残念なことに、多くの観光客は写真撮影が目的になっている。ローマの遺跡の価値に気づくことなく帰っていく。
ローマ帝国の成り立ち、歴史を少しでも知っておけば、ローマ観光は楽しくなる。
下調べの大事さを改めてローマで知ることとなった。
私は一見、行き当たりばったりの旅をしているかのように見られているが、下調べは怠らないように心掛けている。
予定調和な旅をするようになってしまったからこそ、下調べで「深みのある旅」にするようになったのだ。
それをローマの街が気づかせてくれた。バルセロナで感じた不安は的中したが、ローマに来た意味はあった。あの時、スリルを求めて旅先をろくに情報もないような場所に変更していれば旅人として進歩することができなかったかもしれない。
本場のパスタにピザ、ジェラートを堪能し、ふらふらになるまでワインを飲んだ。イタリアではけっこうな贅沢をした。ローマの滞在は満足のいくものにできた。
僕は一旦プラハへ戻り、そこから日本へと帰国した。
今回の旅で、僕は人間として少しだけアップデートされたような気がした。
「死ぬまでに行けたらいいな」
数年前まではそう思っていたヨーロッパも、自分にとって近い存在となった。
「僕はもうどこにでも行ける」
僕はそんな確信を得ていた。
「世界が小さく見える」
僕という存在が大きくなったような気がしていた。
⑨に続く