旅で人生は変えられない⑭(アメリカ編)
前回のあらすじ
テレビで耳にする「メキシコの壁」
たった数十メートルの橋を渡るだけで、言語も社会状況も大きく変わる国境の現場。
そこには、日本では体験することのできない衝撃の光景が広がっていた。
(第14章) テキサス
エルパソからダラスまでは道中の高速道路で銃撃事件が起こり、数時間の立ち往生をくらうことになってしまった。
14時間にも及ぶバス移動の末、お尻は限界の状態になりながらもダラスに到着できた。
バスステーションにはお世話になる予定のホストが迎えに来てくれていた。
メキシコ出身の女性マリアとその弟夫婦が総出で待ってくれていた。
この日、テキサスレンジャースの試合に日本人選手の菊池選手が登板予定だったこともあり、僕は球場に試合を見に行くことを決めていたが、彼らは用事があるとのことなのでとりあえず球場まで送ってもらい、いったん分かれることになった。
・メジャーリーグ攻略法
僕が買ったチケットはこの日の最安値(cheapest ticket)だ。料金は10ドル(1,100円)。
座席は最上部の4階席だ。しかし、これでは選手が米粒程度にしか見えない。
あのマウンドで投げているのが、果たして菊池なのか?
なんとかもっと近くで試合を見れないだろうか?
この日の試合は、5チーム中最下位と4位のチームの試合。
5万人収容のスタジアムには半分も観客が入っていない。
1階の席は埋まっていたが、2、3、4階席はガラガラに空いている。
なんとかして2階席に潜り込めれば、間近で試合が見られると確信した。かつ、観客もいないから何者顔で。
「必殺!お友達作戦」
これが僕が考えた作戦だ。
日本と同様に客席のゲート前では係員にチケットを確認される。
係員と会話し仲良くなることで、さりげなく客席に侵入しようという作戦だ。
「Hello! How are you?」
まずは軽い挨拶から入る。
「俺さぁ、日本から来たんよ。今日ダラスに着いたんだよね。そしたら、菊池が先発するって話聞いて、速攻で来ちゃったよ。」
こんな感じで数分、係員と楽しく会話をしていると徐々に相手も心を開いてくれてきたようだ。
僕「試合が再開するから戻らなくちゃ!Good bye!」
係員「See you! Enjoy!」
作戦成功だ。チケットは確認されなかった。
僕はしれっと2階席に潜入することができた。
ちなみに他の球場でもこの作戦を使った。
2階席にもなると、4階席とはかなり違う。選手の顔までしっかり確認できる。
メジャーリーグは近くで見ると、臨場感がまるで違う。
試合は両チーム2桁得点のホームラン合戦という、いかにもメジャーらしい試合だ。
菊池選手はボコボコに打たれたが、マリナーズが試合に勝利した。
地元のチームが敗北し、ファンたちはみな足早に帰路についていた。
これは1階席に潜入するチャンスなのでは?
僕には謎の自信があった。
僕は人の流れに逆行し、1階へと降りて行った。
1階席のゲート前で係員に見つかり、止められたが「忘れ物をした」というと簡単に通してもらうことができた。
ベンチ横で活躍選手のインタビューが行われていた。
しかし、敵チームということもあり、観客は集まっていない。
これはチャンスだと思った僕は、
「アイムジャパニーズ!テイクフォト!」
選手に猛アピールすると快く了承してくれた。
なんと、この日の最安値のチケットで入場した貧乏バックパッカーが最後に選手とのツーショットまで辿り着いたのだ。もはやこれは奇跡に近い。
ペンを持っておらず、サインをもらうことができなかったが、選手とツーショットを撮れたのは価値が大きい。
僕はテキサスでも奇跡を起こした。
⑮に続く