旅で人生は変えられない⑬(アメリカ編)
前回のあらすじ
砂漠の街・フェニックス。
岩山登山のアクティビティに念願のメジャーリーグ観戦。
僕の旅は順調だ。
(第13章) 国境の街
フェニックスからバスで10時間。
テキサス州・エルパソにやって来た。エルパソはメキシコとの国境地帯にある。かつてここはメキシコであったが、150年前のアメリカとの戦争に敗北し、割譲されてしまったという歴史的な背景がある。
そして、トランプ大統領の言う「メキシコとの壁」の最前線でもある。
ここエルパソには、メキシコ側からたくさんの人が働きに国境を越えてやってくる。
街を歩いていると、人々の間で飛び交っている言葉はスペイン語。英語で話しかけても、全く通じない人も少なくない。
多くの露店では、スペイン語のパッケージの商品やカウボーイハットが売られており、まるで違う国に来たのではないかという錯覚に陥ってしまう。
僕は試しにメキシコ側へ入国してみることにした。
・シウダー・フアレス
メキシコへの入国は簡単だ。
国境になっている幅数十メートルの川に架かる橋を渡れば、そこはもうメキシコだ。橋の入り口に警官らしき人が立っており、そこで50セント(55円)を払えば入国できる。
パスポートチェックは一切なし。もちろんスタンプもない。
メキシコに入れば雰囲気が一気に変わる。
舗装されてない道路、いかにも狂犬病をもっていそうな野良犬がうじゃうじゃいて、タクシーの勧誘がしつこい。
ここシウダー・フアレスの街はマフィアがアメリカに麻薬を密輸するための拠点にしているため治安がものすごく悪い。裏路地に入れば、北斗の拳でいう世紀末のような雰囲気が漂っている。
ここは外務省でも危険レベル3に指定されているため、軽いノリで行ってはならないところだ。
ここではマフィアに買収されている汚職警官もたくさんいるため、誰もあてにはできない。
ふらっと街を散策して、タコスだけ食べて帰ることにした。
ここに住む人々は完全にラテンのノリだ。アジア人が珍しいのだろうか、よく人々から声を掛けられる。
でも相手はスペイン語。まったく何を言っているのか分からない。
ただ一方的に楽しく喋って、ハイタッチをしてどっかに行ってしまう。会話自体はまったく成立していないが、どことなくラテン特有の陽気な雰囲気を感じれて楽しかった。
この日は休日ということもあり、街の市場や広場は多くの地元民で賑わっていた。
そんな中、金髪で大きなバックパックを背負ったアジア人は人々からの注目を集めていた。地元のちびっこ達は僕をずっとガン見してくる。おじさまおばさま達は早口のスペイン語で僕に話しかけ、勝手に一人で笑う。少しだけでもスペイン語を勉強しておけばよかった。
タコスを食べるために地元のレストランに入ったが、ウエイターがまだ半分も飲んでいないのに新しいコーラをどんどん運んでくる。
「No, コーラ!」と言っても、2分後にまた笑顔でコーラを持ってくる。
シウダー・フアレスの人々は面白い人ばっかりだ。
この街だけで年間で日本全体の倍以上もの殺人や誘拐事件が起こっているのがありえないくらい人々は温かかった。
ただ、外に出ると野良犬や薬物中毒者らしき人もたくさんいるため気を抜いてはならない。
3時間ほど滞在し、エルパソに戻ることにした。
・大混雑の国境
アメリカ側に戻るには、まず橋の入り口で30セント(33円)を払いゲートを抜け、橋を渡ってアメリカ側で入国審査を受ける。
ゲートをくぐるときに必ず財布を出すことになるため、前ではたくさんの路上生活者が待機しており、紙コップを出してお金をせがんでくる。
メキシコに入国する時とは打って変わって、入国審査を待つ人で長蛇の列ができている。ここでは2時間ほど並ばされた。
入国審査を受ける時も、普段こんなところにアジア人は来ないため、めちゃくちゃ怪しまれていた。しかも金髪。怪しさ倍増だ。
麻薬を持ち運ぼうとしていないか徹底的に荷物をチェックされ、めちゃくちゃ質問された。ロサンゼルス空港で受けた審査よりも、数倍は確実に厳しくチェックされた。
他のメキシコ人たちも同様に、1人1人にかける審査の時間がとても長い。実際に今でも不法移民が多く流入し、アメリカでは社会問題になっているためしょうがない部分も大きい。
テレビではよく耳にしていた、「メキシコとの壁」の最前線の現状を知ることができた。だからといって、僕にできるアクションは少ないが、このように現状をお伝えすることが僕にできる唯一のアクションだと思っている。
⑭に続く
※シウダー・フアレスの街は軽い気持ちで行くとすぐに犯罪に巻き込まれるので、良い子のみんなはマネしないように!